最近のニュースを見て思った

そこは南西諸島の小さな島だった。週三便フェリーが発着する波止場沿いに人口百人ほどの集落があるが、私のような旅人を迎える民宿の一つもない。そもそも、こんなところに観光で訪れる者などなかった。私が変わり者なのだ。そんな中、私を泊めてくれることになっている羽田氏の家を波止場で尋ねると、集落から少し外れたところであるという。
羽田氏の家に向かう小径は砂利道で手入れがされておらず、藪の中を這うように曲がりくねっていた。十数分ほど歩くと、雑木林の向こうに古い木造の民家が見えてきた。どうやらこれが羽田氏の家らしい。家の傍には傾きかかった電柱が立っていて、点くのかどうかもわからない裸電球が一つぶらさがっていた。
私は摺りガラスのはまった引き戸を叩き、名を名乗った。最初は何の物音も返ってこなかったが、それを繰り返しているうちに、屋内から微かなしゅうしゅういう音がすることに気がついた。
「すみません、お引き取りください」
その音はかすれた男の声で、そう云っているのだと気づくのにしばらくかかった。
「羽田さんですか? 東京から参った佐藤です。どうかしたのですか。お具合でも悪いのですか」
私が引き戸を開けようとすると、男は扉を強く押さえているようで、びくともしなかった。
「どうなされたんですか。入れてください」
私はより強い力で戸を引いたが、家の中の男も譲らない。
しゅうしゅういう声は弁明らしきものを繰り返していたが、あまりに不明瞭で聞き取れなかった。これはおかしい。事前の打ち合わせで羽田氏と電話で会話をしたときには、特に異常な点はなかった。
何か一大事が起こっているという直感が私をつき動かした。私はいったん扉から手を放すと、家の窓を探した。男も、私の意図を察したのだろう。家の中で小走りに移動する音が聞こえる。そこで私は裏をかいた。窓に向かうと見せかけて、玄関に走り戻ったのだ。
その勢いでがらりと戸を開ける。
家の中は薄暗かったが、見回すと、畳の上で頭を抱えてうずくまっている男の姿が目に映った。
「来ないで…ください」
しゅうしゅう声はそう囁いた。
私は男に近づいた。手が汗ばみ、なぜか激しく動悸がした。この男が羽田氏なのだろうか。だとすればなぜ私を拒んだのか。
「どうか、何が起こっているのか私に話してください」
男は、観念したように私の方を振り向いた。
振り向いた男の顔は、人間のものではなかった。つるっとした毛のない頭。ぬめったように光る肌。尖った大きな口。そして、まぶたのない黄色い目。
それはどこか爬虫類めいていた…そうだ、ハブだ…。


…羽田ハブ化っていうとこんな感じですかね。